- 文学部哲学科
- 美術史学専攻
荒川 正明 ARAKAWA Masaaki
日本美術史 / 教授
研究・教育の方針
哲学専攻では、「研究対象に密着しそれに正面から取り組むことで、堅実な研究と思索を組み立てていく」をポリシーに、西洋及び日本の哲学・思想史にわたって、専門的な研究と教育を行っています。
どのゼミにおいても、「まず原典を自ら忠実かつ精確に読み、各人が自らの観点から堅実かつ刺激的な研究成果を生み出していくこと」が求められています。これは学習院大学文学部哲学科の伝統であり、またそうした一見保守的にも思われる方針によってこそ、真に実りある創造的な哲学研究が可能なのだという思いは、本専攻の教員全員のものであり、そしてまさに本専攻の伝統そのものをなす特色であると言えます。
研究分野
日本美術史のなかでも工芸分野をテーマとし、なかでも日本のやきものを中心のテーマにしています。とくに関心をもっているのは、以下の3点です。
- 宴に使われたうつわ(懐石器、酒器、花器など)。
- 茶の湯のうつわのなかに流れる日本人の美意識、精神史。
- 工芸品に表現されたかたち、文様、色彩。
工芸は日々の暮らしのなかで使われてきたものが主体を占めますので、使われた場やその機能が、造形に大きく影響を及ぼしていると思います。うつわを知ることは、使った人間たちの考えていたこと、感じていたこと、そしてどんな生活上の理想を描いていたか、それらをより深く知る手がかりになると思っています。しいては、日本の風土と人間の長いかかわりのなかから生まれた英知を知ることになると思うのです。
私は、長く美術館の学芸員として活動してきましたので、実際に様々な作品に触れ、そこから感じたこと、考えたことをもとに、展覧会を企画し図録を制作してきました。対象としてきた分野は、主に古代から中世の陶器、桃山時代の唐津焼や美濃焼(志野や織部など)、江戸時代の伊万里や古九谷、京焼の尾形乾山などです。
そして、近現代の陶芸家・板谷波山(いたやはざん)に関してはライフワークとして取り組んでいます。ひとりの陶芸家の人生と、そこから生まれていく作品の関係性がとても興味深く、どんどんはまり込んでしまいました。波山の伝記を書き、ついにはそれを原作とした映画(「HAZAN」)までつくってしまいました。茨城県にある波山記念館のサポーターもしており、年に一度の波山の祭りの委員になっています。
美術品の素晴らしさは、その前に立つと、立場や年齢や性別を超えて、様々な人々と語り合うことができ、友人同士になれることです。私は美術史を勉強して一番良かったと思えることは、多くの魅力的な友人をもてたことです。
趣味・特技
各地を旅行し、うつわを見てまわったり、職人さんと話したり、そして美味しいものに出会うことも楽しみにしています。また、体を動かすことが好きです。テニスは学生の頃から続けています。
私の授業
工芸作品は暮らしに息づくものです。ここで学んだものが、いつかはみなさんの日常の生活を豊かにすることにつながっていければと思っています。
講義では、日本のやきものを中心に、そこに表現された世界と、それが使われた社会とのかかわりについて考えるつもりです。実際に作品に触れたり、製作者に話を聞く機会ももちたいと考えています。演習では、実際に陶芸家が残した下絵などをもとにして、作品が誕生していく過程を追ってみたいと思います。また、発表形式をなるべく取り入れ、自由に議論をしていきたいと思います。
日本は紛れもなく世界でも最も魅力的なやきもの文化を育んできた国です。暮らしに親しい食器、暮らしを彩る花器や茶器などを求めることに、大きな喜びを感じている人々は多いと思います。陶芸家がたくさんいることも日本の特徴です。
ところが、意外なことに経済大国アメリカでは、日本ほどに陶芸家が仕事をしやすい環境下にはないといいます。アメリカでは碗や皿など専ら食器をつくることで、日々の生計を得ることのできる陶芸家はほとんどいません。ファーストフード文化を生んだアメリカでは、今もってプラスチックや紙製の食器が主流のようです。
今や日本でも、多くの人々がファーストフードやコンビニ弁当を、何の違和感もなく食する日常が展開しています。このような状況のなかでこそ、なぜ私たちの祖先は手づくりの土のうつわをあえて使うような文化を育んできたのか、きちんと考えていかなくてはいけないと思っています。